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感想記

二人の関係性と近似性 リズと青い鳥

 リズと青い鳥は、作中で登場する架空の童話及び楽曲の名称である

 話の筋は単純で、一人ぼっちの女の子リズが、ある日自宅の近くで倒れている青い髪の少女を見つけ介抱する。それから二人は仲良く一緒に暮らすことになるが、ある夜、リズは少女が青い鳥になって窓から飛び立つところを目撃してしまう。少女の正体が青い鳥であることを知ったリズは、仲間と暮らすことが彼女にとって最善であると判断し、別れを選ぶ。少女もまたリズの気持ちを汲んで青い鳥となってリズの元を離れる。

 

 本作の主人公である希美とみぞれの関係性は、このリズと青い鳥をそのままなぞるような形で進行していく。

 最初は、内気で依存心の強いみぞれがリズ、明るく人望もある希美の方が青い鳥という描き方がされるのだが、音楽という土俵に立ったとき、二人の立場は一転する。

 楽曲「リズと青い鳥」では、みぞれのオーボエと希美のフルートの掛け合いとも言える場面があり、そこが一つの山場となっている。

 しかし、これが上手くいかない。みぞれが希美のレベルに合わせて演奏をセーブしてしまっているからだ。

 みぞれは自分をリズに投影し、彼女が青い鳥との別れを選んだことが理解できず、演奏に迷いが生じていたが、外部指導員の新山からのアドバイスを受けて今は自分が青い鳥の立場であることを自覚する。

 希美もまたみぞれとの実力差を思い知り、彼女と同じ音大を目指す自分に対し疑念を抱くようになる。

 この音楽を通じた二人の関係性の変遷が、本作最大の見どころだろう。

 

 それに加えて終盤では二人の近似性が浮き彫りになっていく。

 作中でみぞれは希美や後輩の剣崎から思ったことを口に出すタイプではないため理解し難い部分のある人物と評される。表現を変えれば、みぞれはわかりづらいことがわかりやすいタイプだと言える。

 一方で希美は多弁で人当たりも良いため、自然と周囲に人が集まってくる。当初この希美とみぞれは対照的な存在として描かれているのだが、終盤のみぞれが自分の気持ちを吐露するシーンでは、希美はほとんど自分の本心を語らない。

 元々、希美には誰にも相談せずに部活を辞めたり、進路を変更したりする秘密主義的なところがあったが、本作の終盤に入るとその一面は一層濃く描かれているような気がする。

 みぞれが自分の気持ちを不器用に隠しているのに対して、希美は上手に隠匿しているといったところか。何にせよこの点に関しては二人は非常によく似ていると言えるのではないだろうか。

 

 リズと青い鳥は90分という時間で二人の少女の関係性と近似性を丁寧に繊細に、そして濃密に描いた作品である。

 

 最後のみぞれの驚きの表情について語るのは野暮というものだろう。