●本
今年の本ミスを先取り。
方舟はクイーン式のロジカルミステリや危機的状況下における名探偵に対する強烈なカウンターパンチ。
逆に白井智之は特殊状況というここ数年の流行の枠の中でクオリティの高い作品を出したという感じ。
●映画
自らが死刑に追い込んだ殺人鬼にヴェノムの細胞の一部が取り込まれてしまい、カーネイジとなって復讐しに来るという内容。
全体的に説明がほとんどなくて、アクションシーンも終始暗くて見づらい。
憎しみが先行して自制が効かなくなったカーネイジを、相反する思考を持ちながらもどうにか人間と共生しているヴェノムが打ち破るという構図は暗示的。
ゴールドラッシュの時代、川底に眠る砂金をあぶり出す薬品を開発した化学者と彼を追う殺し屋の兄弟の話。
父親を殺したときから破滅の道へとひた走るイケメンの弟と普通の暮らしに憧れる醜い兄という対比を軸に展開していく。
化学者の黄金を元手に真の民主主義社会を築くという夢や弟の雇い主を殺して自分がトップに取って代わるという野望は欲をかいたことで一夜にして崩れ去るが、それでも帰る場所があるという希望が提示されている。
第二次世界大戦の最中、味方の救難無線によりナチスドイツの占領地へ赴いたソ連軍一行が、肉体に銃や刃物を取り付けられた改造人間と出くわし、戦うことになるという内容。
武器人間のデザインはたしかに面白いが、POV視点のせいで(特殊メイクの粗をごまかすため?)じっくり鑑賞できないのが残念。
ファシズムや共産主義といった思想が激しく衝突していた時代だったが、ドイツ人の脳とソ連人の脳を同じ頭に右脳と左脳で同居させるシーンが印象的。
「ライ麦畑でつかまえて」や「ナイン・ストーリーズ」で有名なサリンジャーの半生を描いた映画。
サリンジャーは裕福な家庭で作家を志したが、軌道に乗り始めた頃に戦争が始まり精神を病んでしまう。
結果的にそういった経験が作品に深みを与え、「ライ麦」のヒットに繋がり彼は時の人となるが、周囲の熱狂を疎ましく思うようになり、田舎に移住し隠遁生活を送ることになる。
書くことや語ることに対しての苦しみが中心として描かれている。
しかもそれは、作家として評価を受ける前の誰にも認められない辛さであったり、戦争という圧倒的な現実を目にした後の虚無感によるものだったり、作家としてヒットした後の周囲との温度差だったりとそれぞれ性質が異なる。
サリンジャーは仏教的な思想によってその苦しみからの解脱を図る。
妻に先立たれ自殺を図るほど思い詰めた老人が、向かいに越してきた騒がしいイラン人の親子の影響で少しずつ周囲に心を開いていくという話。
グラン・トリノとかに近い感じのよくある内容だが、こちらはエンタメに振り切っている感じ。
チェーホフの銃を踏まえた丁寧なシナリオで、全てが繋がって問題が解決するラストは鮮やか。
現代にウルトラマンを落とし込むという前作のシン・ゴジラと同じ試みだが、
ウルトラマンのようなヒーローものには前例がいくつかあるため、それほど真新しいとは思えなかった。
また現実的という視点から考えると、人間よりはるかに優れた知能や技術を持つ生命体が人類に興味を持つかどうかという点からすでに怪しく、本作の地球や人類をめぐる攻防には終始疑問符がつきまとう。
原作最強の怪獣であるゼットンが星を殲滅するための兵器として登場するのは面白いアイデアだったが、終盤の展開が駆け足なせいでウルトラマンと人類の共闘という展開自体は悪くないにも関わらず盛り上がりに欠けてしまったのが残念。
戦時下の日本において生物兵器として開発された怪人と人間との現代における対立が中心となって描かれている。
戦後、若者たちを中心として怪人の差別撤廃を訴える活動が広がるという設定が現実の日本における学生運動やアメリカの公民権運動を想起させ、リアリティがある重厚な世界観の構築に注力したのがうかがえる。
ただ、怪人は上級怪人ともなると超人的な力を有することになるわけで、当然人間としては危機感を覚えるだろうし、現実における人種差別とはいささかレベルが違うようにも感じた。
最終的に怪人の素を生み出す創世王と呼ばれる存在がいなくなったことで、この世界における怪人差別は遅かれ早かれなくなることになるわけだが、
その矛先は移民に向けられるだろうと匂わせている。
作品としてのメッセージは差別撤廃という綺麗事ではなくて、異物を受け入れられず差別が横行すれば差別を受けた側も黙っていないかもしれないし場合によっては闘争に発展する可能性もあるという警鐘だと受け取った。
廃墟に設置された扉から出てきて地震を起こす巨大なミミズによる被害を防ぐため、各地の扉を締めて回る”閉じ師”の男と出会った少女の話。
扉は日本列島の各地に点在しており、本作では宮崎県から始まり、愛媛、兵庫、東京を経て宮城に至るまでの少女の旅を描いたロードムービーとなっている。
過去作の「君の名は」や「天気の子」でも人智の及ばない災害は登場したが、本作では主人公の少女が3.11の被災者と明示しており、災害というテーマをより濃く押し出している。
過去の災害の傷が癒えたとは言えない現状のなかで暮らす我々にとっては、かなりデリケートなテーマであるが、制作側もそれは折り込み済みで過激な展開は控えめ。
被災者に寄り添った内容ではあるが、中盤以降の展開がハッピーエンドを成立させるためにご都合主義的になってしまっていて少し退屈。