シーズン1
◯死者からの伝言
のっけからダイイングメッセージもの。
殺害方法は部屋の中に閉じ込めて窒息死させるというものだが、被害者は残された時間で可能な限り犯人に繋がるメッセージを残そうとする。
犯人もそれを見越して証拠を隠滅できるように自分が第一発見者となることに成功するのだが、被害者はその更に裏を読んでメッセージを残すという、この犯人と被害者の駆け引きが面白い。
最大の見せ場はやはり白紙というダイイングメッセージをロジックで解明するところで、古畑の実力を知らしめるシーンにもなっている。
古畑のキャラクターはこの1話から完成されており、ほとんどブレがないと言っていい。
◯動く死体
ミステリにおける犯人特定は単純化して言えば仲間外れを探す作業だが、この話はそのわかりやすい実例。
犯人が昇降装置を下げ忘れたことも当然考えられたが、言い逃れをできない状況を巧みに作り出している。
◯笑える死体
被害者が犯人にとって都合よく動きすぎなところが目に付くが、それでいて犯人は被害者の誕生日のサプライズを全く読めておらず、それが決め手となって事件は解決する。
完全犯罪がいかに困難であるか、というのも「古畑任三郎」のひとつのテーマだろう。
◯殺しのファックス
ワープロ打ちのファックスをタイマーで送って狂言誘拐をするというかなり厳しい内容。
グレーのコートを着てる刑事がいなかったらどうするつもりだったのかは謎。
犯人役も釣瓶なので、ミステリというよりはコメディ要素が強い回。
◯汚れた王将
飛車はどうして成らなかったのか? 封じ手の隅に書かれた♀の意味は? といった魅力的な謎が多い回。
ただ、スーツを着慣れていない人だとしても大の大人が背広を畳むというのは常識がなさすぎるので、この手がかりからは未成年の犯行を疑うべきだろう(学生でもブレザーは畳まないと思うが…)。
◯ピアノレッスン
古畑シリーズの中でも完全犯罪に近かった回。
この話の面白いところは大仕掛けをするのが犯人でも被害者でも探偵でもないというところ。
◯殺人リハーサル
犯人はすでに割れていて、過失か殺人かが問われる珍しいケース。
セットの吊物の月が降りていなかった理由が焦点となるが、その回答がロジカルでないうえにアンフェア気味。
◯殺人特急
タイトルの通り列車内での殺人。
犯人特定が困難な状況だが、足首の静脈に塩化カリウムを注射して殺すという特殊な犯行のため、犯人は医療従事者と推測できるようにしてある。
犯人が明らかにサイズがあってないコートを着ている時点で怪しすぎるのだが、古畑はわざわざ犯人しか知り得ない事実を導き出して事件を解決する。
◯殺人公開放送
えせ霊能力者による犯行。
犯人しか犯せないミスを指摘されお縄となるが、有名人なのにプライベートでも目立つ黄色のサングラスをわざわざかけているところは不自然と言えば不自然。
◯矛盾だらけの死体
シリーズ初の連続殺人を試みたケースだが、結局二人目を討ち逃したことが仇となってしまう。
突発的な犯行のため犯人のボロが多く、事件としてはイージーだが、展開としては面白い回。
◯さよならDJ
力技回。
注目すべきは、殺害のトリックではなくて、犯人は被害者の関係者だと導き出す古畑のロジック。
◯最後のあいさつ
不運な犯人その1。
滞在していたホテルで火災が起きなければおそらくアリバイは立証されていただろうし、バーに薬の売人以外に怪しい人物がいなければ証言を疑われることもなかっただろう。
◯笑うカンガルー
被害者が二度被害に遭うケースで、一度目と二度目で犯人が異なる。
頭を殴られ記憶喪失になった被害者が、自分が難問の数式を解いたと勘違いしてしまうあたりは、これが二度目の犯行の引き金になってしまう皮肉も含めて面白い。
ただ、頭から出血している被害者を犯行現場のホテルの一室から犯人が共用部の階段まで引きずっていくあたりは流石に無理がありすぎる。
シーズン2
◯しゃべりすぎた男
今泉が犯人として逮捕されてしまい、古畑が法廷で犯人と争うという異色の回。
犯人が発した「花瓶」という言葉から古畑が一気に犯人を追い詰める展開は鮮やかとしか言いようがない。
◯笑わない女
信心深い犯人が定められた戒律を守ったうえで完全犯罪に臨むという二作続けての異色回。
何故イヤホンをつけながら犯行におよんだのか、がわかったときに思わず膝を打った。
犯行の動機も常軌を逸していて面白い。
個人的にシリーズで一番好きな回。
◯ゲームの達人
連続殺人。こちらは2人の殺害をきっちり成功させている。
サインのない遺書からの犯人特定は鮮やかだが、遺書をしっかり画面に映してくれないのはアンフェア。
この回あたりから警察や暴力団関係者でもないのに銃を所持している犯人が出てくる。
◯赤か、青か
遊園地に仕掛けられた爆弾をめぐって古畑と爆弾犯との攻防が描かれる。
被害者の警備員が殴られた体勢から自転車の登録ナンバーを確認しているところだったと推測(あるいは想像)できるのは古畑くらいだろう。
◯偽善の報酬
凶器が決め手となるのは確かこの回だけ。
奇しくも今回も被害者が殴られたときの体勢の問題が出てくるが、こちらは納得できるような内容。
個人的にシリーズで一番不快な犯人。
◯VSクイズ王
ここへ来てシリーズ初の密室殺人。
くさやを使用した密室トリックは前代未聞でアイデア自体は面白かったが、警察が絡んでいる状況でこれが成立するとはとても思えない。
◯動機の鑑定
高価な壺をめぐる連続殺人。
贋作と本物の壺が並んでいる状況でどうして本物の壺を凶器として用いたのか、という問いに対する回答が粋。
◯魔術師の選択
ミステリの王道のひとつ、毒殺トリックが主題。
ESPカードを使用したマジックと毒殺トリックを組み合わせることに成功しているが、タイトルのマジシャンズセレクトがいまいち要領を得ず、なぜ被害者が毒入りのジュースを手にしたのか、の説明が少し不十分だったように思う。
◯間違えられた男
不運な犯人その2。
犯人のセリフにもあったが、序盤の事件の解決編が見たい。
◯ニューヨークでの出来事
犯人の口から過去に犯した完全犯罪の全容が語られ、どうやって犯人は毒殺したのか、が問われる。
完全にアンフェアな回だが、古畑は犯人の嘘を見事に見破り、想像の翼を羽ばたかせて事件を紐解く。
◯しばしのお別れ
今泉がステージ上で発したギャグを知らなかったことが原因でアリバイが崩れるあたりは失笑。
ネックレスのギミックはアンフェア。
集団での犯行。
予定にない草彅の参入で全てが瓦解するが、草彅が負傷したり中居がネックレスを引き千切られていることから、そもそも4人では無事に被害者を自殺に見せかけて殺すことができたかどうかも怪しい。
中居は他殺と見破られるのを見越したうえで自分に矛先が向くようなプランを用意していたのだが、結果的に5人の中で一番アリバイが濃厚となった稲垣が中居に罪を着させようとしていると誤解されてしまうあたりは皮肉。
◯黒岩博士の恐怖
ミッシングリンクがポイントと思わせて序盤でその謎は解かれてしまい肩透かし。
決め手は、卵についた被害者の指紋だが、遺体から指紋の採取は困難だということを検死官である犯人が知らないはずはないだろう。
西園寺と花田はこの話から登場。
シーズン3
◯若旦那の犯罪
遺体が掴んでいた煮干し→被害者が落語家であったことから古典落語の干物箱→犯人は古典落語に精通しておらず、かつ自分の代役を務められる人物、と咄嗟に残したとは思えない完璧なダイイングメッセージだが、これを決め手にしないあたりに気合を感じた。
◯忙しすぎる殺人者
窓から隣のビルの中でカップルがいちゃついているのが見えた、と事件と直接関係のない供述から真実が明らかになる点は悪くないが、逆に犯行に及ぶ際に外から中の様子が丸見えだと意識してしまったら普通はカーテンを閉めるんじゃなかろうかという疑問も湧いてくる。
◯古畑、風邪をひく
村ぐるみで殺人事件を隠蔽するという話だが、流石に警察がいる中で被害者が存在しなかったことにしたり、成りすましを行うのは無理がありすぎる。
遺体がどこにあるか言い当てた古畑は最早超能力者。
◯アリバイの死角
歯石を取るだけでも無言でやるわけにはいかないだろうし、ここで担当者が入れ替わっていることに古畑が気づかないわけがない。
最後も犯人がボロを出しすぎ。
◯古い友人に会う
他殺に見せかけた自殺を行うというこれまでと逆転した内容で、かつ犠牲者が誰も出ない平和な回。
事件自体はなんてことないが、古畑が犯人の自殺を思い留まらせる場面はシリーズ屈指の名シーン。
◯絶対音感殺人事件
絶対音感の人じゃないとわからない感覚が主題になってくるのだが、ほとんどの人は絶対音感を持っていないわけで、絶対音感の人にとって水槽のポンプの音でさえも気になると言われてもそれがどれほど耐え難いことなのかピンとこない。
相対的真実の根拠には一般的な感覚が基になることが多く、人と異なる特異な感覚は時間をとって事前に説明しないと一般人には納得できないため、この回を45分で成立させるのは難しかったのではないかと思う。
◯哀しき完全犯罪
完全犯罪に向いてない人が完全犯罪を行おうとしたらどうなるのか? がこの回のテーマだと思う。
序盤と終盤で被害者と犯人の印象がほとんど真逆に変わるのが面白い。
◯完全すぎた殺人
小型爆弾を使った遠隔殺人。
犯人にとって一番の誤算は、被害者がプレゼントの包装紙を大事に保管していたことではなく、破片しか残されていないにも関わらずそれを手がかりに爆弾に使用されたものと同じ像を警察が見つけてきたことだと思う。
◯雲の中の死
不運な犯人その3。
流石に飛行機の揺れで壁に頭をぶつけたくらいで死なないのでは?
古畑はほとんど捜査に参加せず西園寺が一人で解決する箸休め回だが、今泉が見たグレムリンの正体は面白い。
◯最も危険なゲーム
集団での犯行で、かつ電車のコントロールセンターをジャックするというかなり大掛かりなものでシーズン3最終回にふさわしい内容。
犯人たちのお目当てのバッグの中に隠されたメモを事前にすり替えておいたり、犯人が金を返しに来ることを読んだうえにどこに金を置くかまで当てて見せるなど、この回の古畑は流石にやりすぎ。
◯すべて閣下の仕業
南米のとある国の日本大使館が舞台。
国民が貧しい暮らしをしているなかで日本の外交官は地元の企業から金を毟りながら贅沢三昧の日々を送っている。当然国民には反日感情が芽生えデモも起こっている、とほんのり社会派の背景もあって真面目な話なのだが、事件解決の決め手がほとんどギャグなので微妙に締まらない感じ。
今回は犯人が自首せずに自殺する唯一のケース。
「死んでいい人なんて一人もいない」と言いつつ、古畑は犯人の自害を予想できていたにも関わらず、敢えて止めなかったと思われる。
ファイナル
◯今、甦る死
犯人が一人の人間を完全に操って殺人を犯すという内容。
見立て殺人の要素があり、石坂浩二が出演していることから金田一シリーズのオマージュと見せかけて、これはエラリー・クイーンの「十日間の不思議」のオマージュだと思われる。
◯フェアな殺人者
イチロー回。
イチローも言っていたが、車の助手席に置かれたマッチからイチローまでたどり着くあたりは見事。
イチローと向島が兄弟という設定は突飛すぎるし、向島が間接的とは言え古畑に勝負を挑むとは到底思えない。
◯ラスト・ダンス
ミステリで双子と言えばこれしかないという内容。
一般人が何故銃を所持しているのか、この回でようやく言及があった。
なんでこんなまどろっこしいことするのか、がよくわからなかった。先生という立場を利用すれば古畑を家に帰すこともできたろうに。