女学生の頃に出会った画家の男ともう一度会うために奔走した女優の半生を追体験するという内容で、キャッチコピーは「その愛は狂気にも似ている」とのことだが、幻想的ではあるもののサイコな作風ではない。
この作品、とにかく走るシーンが多い。男を追いかけて、男に会うためにとにかく走る。千代子に偏執狂的なところがあるのは事実だが、この疾走感と美しい作画のおかげでどこか爽やかな印象を覚える。また雪の中を走るシーンは、彼女の心の空白を表しているようで哀切すら感じる。
そして、本作でもう一つ印象的なのが地震である。これはそのまま崩壊やその予兆として表現されている。ただ、それだけではなく、千代子が関東大震災の日に生まれたことや彼女の死に関連することから再生としての意味合いも強いと思われる。
言うまでもなく画家の男は理想のメタファーであり、鍵はそれを追う権利や資格のようなものだろうか。鍵が手元にないとき、千代子は結婚したり、仕事を辞めて隠居したりと我に返ったような行動に走っている。
ラストのセリフが非常に印象的で、作品を通じたメッセージとしては「求めよ」ということなのかもしれない。与えられるかどうかは別として……。