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感想記

偶像の崩壊 PERFECT BLUE

 三人組のアイドルユニットのメンバーのひとり霧越未麻は、事務所の意向によりユニットを脱退し、ソロで女優として活動していくことになる。

 裏切られたと感じたファンは脅迫行為を始め、事務所の社長が寄越す脱ぎ仕事も相まって未麻は精神的に追い詰められ、アイドルとしての霧越未麻の幻覚を見るようになる……。

 

 現実と夢、今と過去、アイドルと女優という対比が印象的な作品。

 対比を示すために鏡というモチーフが何度も登場し、ラストのシーンでも車のバックミラーに未麻が映し出される。

 

 また現実と夢の他にテレビドラマという作中劇を展開することによって、それぞれの境界を曖昧にしていく手法が用いられているが、いわゆる妄想オチにしてしまわないのが本作の偉いところで、それら全てが統合し現実の出来事として完結している。

 

 千年女優でも特長的だった走るシーンだが、本作では時として何かに追われたために走り、アイドルの幻覚を追うために走ったり、本作では純粋に緊迫感の演出のために用いられていると感じた。

 

 大枠として見ると、未麻がアイドルとしての自分を切り離す過程が描かれている。そのためのしがらみとして元ファンの異常行動であったり、肌を露出する過激な仕事といったある種のイニシエーションを乗り越えていく。

 

 ラストのシーンで彼女が発した「私は本物だよ」というセリフには、アイドルとしての霧越未麻が完全に死んだことを意味するが、その一方で女優としての霧越未麻もいずれ彼女から切り離されるわけで、未麻の本質は一体どこにあるのか? という疑問を視聴者に提示し、何か底の知れない後味の悪さを残す。