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感想記

ユートピア けものフレンズ

 けものフレンズは、色々な意味で話題になった作品だが、その熱量がすさまじかったせいもあって私はこのコンテンツに対して知らぬ存ぜぬというスタンスを取り続けていた。

 2020年8月、けものフレンズはかつてのように俎上に載せられることはほとんどなくなり、完全に衰退したといって良い状況にある。裏を返せば、作品についてフェアな視点から論じることができる段階に入ったとも言えるわけだ。

 けものフレンズのシナリオについては、個人的には語るべきところはほとんどない。カバンという人物が自分探しの旅に出かけ、答えを見つけ、最後には自分の同胞を求めてまた旅に出るという王道と言えば王道的な内容だからだ。

 後述するフレンズと呼ばれるキャラクターは動物を基にしているため個性的かつ魅力的だが、注目すべきはキャラクターよりもその世界観だろう。

 けものフレンズの舞台はジャパリパークと呼ばれる巨大動物園だ。人によって管理はされていないため、正確には動物園の成れの果てといったところだろうか。
 ジャパリパークにはフレンズと呼ばれる生き物が暮らしている。フレンズについては謎が多いが、特徴として人間化した動物のような見た目をしており、鳥のフレンズもいれば、猫のフレンズもいて多種多様である。また、フレンズはメスしかいないようでどうやって繁殖してるのかは不明だが、その動物の毛や遺物がサンドスターと呼ばれる物質と接触することでフレンズは生まれるらしい。サンドスターについてはパークの山の火口から時々噴き出してくるということぐらいしかはっきりとはわからない。
 フレンズは人間と同じように話すことができ、そのため異種同士でも意思の疎通が可能だ。フレンズの食料は他の動物や植物というわけではなく、ジャパリまんと呼ばれる饅頭が何処からか支給されているようで全てのフレンズがそれを食べて生活しているらしい。
 つまりジャパリパークはサバンナのような厳しい環境ではなく、むしろ高度に自動化されたユートピアであると言っていい。
 食料の件はもちろん、性別もメスしかいないので繁殖のための争いも起きない。力の有り余ったフレンズが戦いごっこに興じていることもあるが、パークにはセルリアンと呼ばれるフレンズ共通の敵が存在しているため、エネルギーが蓄積されていくということもない。フレンズが死ねば、その遺物とサンドスターが接触することでまたフレンズが生まれる。サンドスターとジャパリまんの供給が途絶えない限りこの循環は続いていく。
 問題は、誰がどういった目的でこのシステムを作り上げたのかということとこの設定がどのようにストーリーに関わってくるのかということだが、両者共に作中ではあまり触れられないまま終わる。ユートピアディストピア)モノにありがちなシステムの崩壊は起こらず、パークは平和なままだ。
 ジャパリパークは生物にとって理想的な環境と言えるが、ヒトであるカバンはパークに留まらず、同胞を探すため海を渡ることを選ぶ。これは続編を匂わせるメタ的な意味合いが強いと思われるが、ヒトという種族を象徴するラストと言えるかもしれない。