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感想記

2022年4月 感想まとめ

●映画

 ヤクザ映画と言えば、ヤクザ同士の抗争がテーマとなっていることが多いように感じるが、

 本作では、警察とヤクザの関係性に焦点が当てられている。

 孤狼の血役所広司演じる型破りな刑事の遺志を松坂桃李演じる後輩刑事、日岡が引き継ぐという王道的な展開。

 LEVEL2では、鈴木亮平演じる凶悪なヤクザが出所し、日岡の支配が揺らいでゆく緊迫感のある内容が描かれている。

 この二作を通じて松坂桃李のイメージがガラッと変わってしまうほど良い演技を見せてくれる。

 

 親の因縁にその下の世代が従う必要はないというのが作品を通じたメッセージだと思う。

 ただ、とは言っても……みたいなところもある。

 

 タイトルにある通り、上流階級にぶら下がって生きる人々を描いている。

 そして、格差に対する個人単位での反逆は何の意味もなさないという事態の硬直化も表現している。

 

インターンシップ (字幕版)

 会社が倒産し無職になった二人組の元営業マンがGoogleインターンに参加して正社員を目指すという内容。

 作中の最近の若者はゲームやネットばかりでリアルを感じていないという指摘には疑問符。

 

 イランの映画だが、日本と同じような老人介護とそれに付随する家庭内不和の問題が描かれている。

 必要な情報を提示しなかったり、敢えて疑わしいような描写を加えることで妻や娘が抱える夫(父)に対する不信感を視聴者にも与えるような構成にしてある。

 西川美和の「ゆれる」を観たときと同じような感覚に襲われた。

2022年3月 感想まとめ

●ゲーム

 腐海に眠る王女のアバドーン

 同人ゲームをプレイしていると、開発力というかマンパワーが不足していると感じさせられるが、この作品に関しては、インディーズとは思えないほどの完成度だった。

 演出は結構ガチよりのホラーだが、ドット絵で表現されている(このドット絵も緻密で一見の価値あり)ため多少緩和されている。

 クトゥルフ神話スウィートホームがベースとなっているようだが、残念ながら両方とも詳しく知らないため内容について語るところはない。

 

 MECHANICA――うさぎと水星のバラッド――

 「うさみみボウケンタン」がなかなか面白かったのでこちらも購入。

 グラフィック、音楽、UIなどあらゆる点で「うさみみボウケンタン」から進化しているが、戦闘をなくしてしまったので、終盤の展開にはプレイヤーがあまり参加できない。

 サイバーパンクというよりはタイムリープパラレルワールドといった要素が中心なので時間SFっぽい。

 

●本

 前作のラストの後の展開が中盤になってサラッと明かされるあたり拍子抜けだが、

 この形式ならではの犯人当て、被害者当ての試みが面白い。

 

●アニメ

  Vivy -Fluorite Eye's Song-

 デトロイトビカムヒューマンと時間SFを組み合わせたような脚本。

 戦闘シーンの作画は良かった。

 

●映画

 原作は読んだ。

 映像にするとチープに見える部分もあるし、わかりやすくなっている部分もあった。

 

 実話に基づいた黒人差別を扱った作品。

 ロードムービーとしても面白い。

 

 冴えない青年が薬の売人になって破滅する話としか言いようがない。

 

 

 カウボーイが戦場へ出て行くとどうなるのかという話。

 度々出てくる悪党どもという表現が虚しい。

 

 

 これも実話を基にした映画。

 基本は天才がどうにかする話だが、周囲との協調みたいな小学生レベルのことも教えてくれる。

 

 

 娘が失踪し、父親がおかしくなる話。

 結局、父親の暴走で取り返しのつかないことになるかと思いきや……。

 良くも悪くも期待を裏切ってくれた作品。

 

 

  過去の体験や病から自分には生きる価値がないと思ってる男と女が出会って二人で死ぬ話。

  他人の選択には関与できないということを伝えたかったのだろうか。

 

 

 とにかく映像が楽しい作品。

 有名な死体のシーンもそうだが、金田一が歩くシーンさえも退屈させない。

 ミステリとして面白いところがないのが残念

 

 

 韓国民主化運動の最中の実話を基にした映画。

 歴史的な背景はよく知らないが、随所に映画的な演出がちりばめられており、その過剰さが鼻につくこともあった。

 

 

 あの原作からどうしたらこのような映画が出来上がるのか。

 堤幸彦の出来損ないみたいな演出がひたすら退屈で浜辺美波の可愛ささえもどこか上滑りしてしまっている。

 

 

 父親を殺した母親が15年ぶりに子供たちと再会する話。

 親がいくら子供のことを想っても子供は親の思い通りには育たない。

 イカれた佐々木蔵之介が見られるのはおそらくこの作品だけ。

 

 

 

 敗色が濃厚となった戦時下の息苦しさが伝わってくる映画。

 ちょっと映像がキレイすぎる気もした。

 

 

ミッドサマー(吹替版)

ミッドサマー(吹替版)

  • フローレンス・ピュー
Amazon

 情緒不安定な女が彼氏やその友人らと共にスウェーデン夏至祭に参加するという内容。

 ヒッピー文化はよく知らないが、作中のヒッピーは皆を家族とし、感情を共有しているかのような振る舞いをする。

 全体主義的であるが、孤立を必要以上に恐れる人や不安を抱え込んでしまいがちな人にとっては現代社会よりも生きやすい環境なのかもしれない。

 

 3月は以上。

2022年2月 感想まとめ

●ゲーム

 

 ヘンタイプリズン

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 あらすじだけだと特殊性癖の人が生き方を模索するような内容のように思えるが、実際には特殊性癖の必然性は少なく、あくまでそういったキャラ付けという認識の方がしっくりくる。

 尖っているように見えて作品で提示される解答は至極まともなもので、アダルトゲームの中でさえも社会的なバランス感覚が必要になってしまったのかもしれないと感じた。

 

 プロナントシンフォニー

 女神転生シリーズなどプレイヤーの善悪を問うゲームはこれまで数多く世に送り出されてきた。

 アダルトゲームでは闘神都市Ⅱなどが有名どころだが、本作はその系譜にある作品。

 主人公は、自らが洗脳魔法をかけた四人の女の子とともに悪魔を倒す旅へ出るが、悪魔を倒せばその洗脳は解けてしまう。

 洗脳が解けた後、主人公と女の子たちの関係はどうなるのか? という問いはプレイヤーとゲームの関係性とリンクしていると言えるかもしれない。

 

 うさみみボウケンタン

 大雑把に見せてから細部を描いてストーリーを展開している。

 ツクール製だが、クイズによる戦闘などからその枠に囚われずに斬新なことをしたいという気概が感じられる。

 いわゆる無口な主人公を極めて効果的に使った一例。

 

 プリンセスサクリファイス

 戦闘でやられればやられるほど強くなるというRPGのセオリーの逆を行くシステム。

 また。主人公は不死なのでラスボス戦以外はゲームオーバーもない。

 アダルト作品としての表現や実用性にこだわっただけなのかもしれないが、結果としてアンチRPGみたいな仕様になっている。

 

 

●本

 クイーン以外はあまり目的意識のない読書になってしまった。

 小林泰三の未読作品が減っていくことに寂しさを覚える。

 

●アニメ

 ゆるキャン△

 「けいおん!」の変奏曲。

 登場人物がちゃんとバイトをしたり、お小遣いの範囲でキャンプをするというのが妙に律儀で印象に残った。

 

 ウマ娘 プリティーダービー

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 実際の競馬シーンを知っている方が楽しめるのだが、知っていると物語の不可知性が損なわれるというジレンマ。

 

 アクダマドライブ

 良質なノワール

 第8話の詐欺師が本当のアクダマになる過程で運び屋の背景を想像させる構成は必見。

 

 2月は以上。

2022年1月 感想まとめ

●ゲーム

 Demons Roots

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  長らく人間に虐げられてきた魔族が奴隷と手を組んで反旗を翻すという話。

 支配者と被支配者という対立構造を軸として展開していくが、そこへ共存や寛容性の問題も織り交ぜながら種が生き残る方法を模索している。

 個人で作ったとは思えないほどクオリティの高い作品。

 

  Inscryption

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 カードゲーム+謎解き+メタフィクション

 デジタルカードゲームの隆盛によりプレイヤー同士のやり取りが限定され、カードゲームは殊更に”勝ち負け”にフォーカスが当てられるようになったが、本作では勝負の中にある過程をもう一度見つめ直そうとしている。

 すべてのカードゲーマーやカードゲームから離れてしまった大人へ向けた作品。

 

 グノーシア

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 SF+ループもの+人狼ゲーム。

 参加者の情報を得ることで話が進展することから、こちらも人狼ゲームそのものというよりは、人狼ゲームを通して得られるものを描こうとしているように感じた。

 

●本

 蒼海館の殺人

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 前作「紅蓮館の殺人」の続編。

 探偵の挫折と再生を描くと同時に、一蓮托生であるワトソンの在り方にも触れている。

 家族関係をテーマとしながら、事件自体はそのコントロールの奪い合いを呈すなど屈折した内容となっている。

 

 黒牢城

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 時代小説+ミステリ。

 信長に対して謀叛を起こした有岡城の戦いが背景となっている。

 歴史が証明している通り村重は敗北するのだが、戦国の世の理に反した彼のやり方がどのような結末をもたらしたのか、ということが当時の人の価値観を混じえながら描かれている。

 

 兇人邸の殺人

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 「屍人荘の殺人」シリーズの第3弾。

 今度は人体実験によって生まれた巨人と屋敷の中に閉じ込められるという内容。

 屍人荘の殺人と似たような展開に回帰し、本格ミステリというよりはSFサスペンスホラーに舵を切ったように感じる。

 

 invert 城塚翡翠倒叙

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  「medium 霊媒探偵城塚翡翠」に登場した城塚翡翠倒叙中短編集。

 倒叙と言えば、刑事コロンボ古畑任三郎だが、本作は明らかに古畑任三郎のオマージュである。

 そのうえで捻りを加えたラストの展開はかなりの荒業。

 

 僕が答える君の謎解き 明神凜音は間違えない

 僕が答える君の謎解き2 その肩を抱く覚悟

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 ラブコメ本格ミステリ

 これまでラブコメと広義のミステリが合わさった作品はあっただろうが、ラブコメとクイーン式の本格パズラーが融合した作品はなかったと思う。

 その意味で本作は革新的と言える。

 特に僕が答える君の謎解き2に収録されている「一年七組とたったひとりの正直者」は出色の出来。

 

●アニメ

 かくしごと

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 下ネタギャグ漫画家がその事実を娘に悟られないように奮闘するコメディ。

 全体的にまとまりが良く、細部というよりは構成の巧さが光る作品。

 

 かげきしょうじょf:id:cha3E:20220130093921p:plain

 宝塚音楽学校をモデルとした劇団養成所が舞台となっている。

 主人公の二人は、単に才能に恵まれているというだけでなく、歌舞伎とアイドルという異なったバックボーンを持っているというのが特徴。

 

 

 1月は以上です。

 

許すことについて the last of us part2

 the last of us part2は前作から5年後が舞台となる。
 女兵士アビーによってジョエルを殺害されたエリーが彼女に復讐を遂げるために旅に出る、という内容。

 結果としてエリーは復讐を果たすことができずに終わる。
 一度は返り討ちにあい、二度目は寸前のところまで追い詰めたがトドメをさすことができなかった。
 エリーがアビーを殺すことができなかった理由については、各々が何となく想像できるようになっている。

 この作品では多様性というのがひとつのテーマと考える向きがあって、昨今のポリコレブームと関連付けられ賛否両論あるらしいが、個人的にこの作品の根本にあるのは"許す"ことだと感じた。多様性というのも寛容の問題のひとつに過ぎない。

 復讐というのが一つの大きな問いかけで、アビーからジョエルへの復讐というのは非常にわかりやすい。
 おそらく多くの人間がアビーの立場に立ったときジョエルを許すべきではないと思うだろう。
 それでは、エリーからアビーへの復讐はどうだろうか?
 これも正当と考える人もいるだろうが、逆恨みに過ぎないという意見も出てくるだろう。
 
 そもそもジョエルがエリーを助けるために取った行動は許されるべきなのだろうか?
 エリーは許せないと言ったが、ジョエルの側にすれば、いくらエリーを大事に思っていても簡単な決断ではなかったことは想像に難くない。

 ある行為が許されるかどうかという問いには絶対的な答えは存在しない。
 法の裁きがなくなった世界では尚の事だ。
 しかし、作中では一つだけ明確な答えを提示している。
 それはエリーやトミーの末路から明らかなことだ。

 寛容でない者に安息は訪れない。
 他者を許すことで救われるのは、自分なのだ。

ケイゾク 各話感想

 1 死者からの電話

   いわゆる「顔のない死体」を警察の科学的捜査の中でいかに成立させるかに挑戦した話。

   歯医者や歯科助手が患者の顔を覚え間違えるというのは現実的でなく、そもそも被害者と犯人の容姿が全く似ていないので、これに気づかないというのは流石におかしい。

   多田を「おおた」と読ませるトリックはまずまず。

 

 2 氷の死刑台

   冷凍倉庫内での刺殺事件。

   アリバイトリックを仕込んだうえで特定の団体に容疑をなすりつけるなど手口が巧妙。

   ただ、酸素を確保するために倉庫の壁に穴を開けたというのはかなりの力業。

   

 3 盗聴された殺人

   力業という意味ではこの話がダントツ。

   部屋を誤認させるために壁をもう一枚つくるというカーとかアルテの小説並みに荒唐無稽なトリックが用いられている。

   その時間に室内で鳴っていたはずの音を盗聴器が拾わなかったことから、盗聴器が移動されたという仮説を導き出し、盗聴器の設置場所を知っている人物が犯人というプロセスは悪くないが、依頼者が車に乗り込んで盗聴器の説明を受けるあたりはやや不自然。

 

 4 泊まると必ず死ぬ部屋

   ケイゾクの中で一番本格度の高い話。

   密室からの消失が秘密の出入り口で片付けられてしまったのは拍子抜けだが、トランプの七並べの結果で犯人がわかるというのがとても面白い。

 

 5 未来が見える男

   どことなくTRICK感のある話。

   窓から顔を出した男に凶器を落とすという殺害方法だが、その反動?で窓が閉まったり死体が室内に転がるというは無理があって、作中でも「賭けだった」と予防線を張っている始末。

   コートに入っていたタクシーの領収書から超能力を見破るあたりはまずまず。

   ただ、この話で明確に超能力を否定していないのが後々の展開に繋がる。

 

 6 史上最悪の爆弾魔

   名前負けしてる感のあるタイトル。

   ここまで遠回りする必要があったのか疑問になるほど遠回りな犯行。

   コロンボあたりで似たような話を見たような気もする。

 

 7 死を呼ぶ呪いの油絵

   変化する絵の謎は、単純に絵が二枚あるというだけの話だが、重要なのは各々の認識と入れ替えるタイミング。

   これによって絵が変化したと思わせる手口が巧妙。

   入れ替えと言えば、水筒もそうだが、こちらで重要なのは入れ替わった事実ではなく、その中身だったりする。

 

 8 さらば! 愛しき殺人鬼

   ハンドルネームによる人物の誤認、そしてそれを利用した殺害順序の誤認とこちらもかなり本格度が高い。

   動機の軽視によって意外な犯人を設定しているが、その動機というのがラストに繋がっている。

 

 9~11

   これまでと一変して超能力との戦いへ。

   あくまで人を操るという超能力なので、ロジックで対応できないこともないが、終盤は推理要素がほとんどないのが残念。

   この超能力犯罪との対決という構図が続編にあたるスペックや同じく堤幸彦が関わっているTRICKに引き継がれていったと思われる。

   

 

 

  

敵は不条理な死 アンナチュラル

 アンナチュラルは、不自然死を調査する民間の研究所「UDI」で働く人々による法医学ミステリードラマ。遺体を解剖し、死因を究明することで、事件の真相であったり、真犯人を暴き出すというのが毎話の基本的な流れとなる。

 

■登場人物とキャスティングについて

 本作の主人公は石原さとみ演じる三澄ミコト。33歳の法医解剖医である。医者としてはまだ若いが、仕事ができる優秀な人物として描かれている。

 石原さとみが役の年齢よりもかなり若く見えるということもあって、あまり信憑性がないキャスティングではあるが、ステレオタイプの勝ち気な女性というのも食傷気味だし、振り返ってみると適任だったと思う。

 一家心中の生き残りという法医学を志すバックボーンはあるものの、この過去は本筋にはあまり関わってこない。主役というよりは視点人物という表現の方が適切だろうか。

 

 で、本作の影の主人公が井浦新演じる中堂系だ。ミコトと同じくUDIで働く41歳の法医解剖医。

 無愛想で口は悪いが腕は立つ少し影のある男前という人物で少女漫画に出てきそうな設定である。アンナチュラルの登場人物は、女性陣は現実にいそうな人格をしているが、男性は漫画的・アニメチックな”キャラクター”であるといえる。

 8年前に恋人が殺され、その遺体を自ら解剖したという重すぎる過去を持つ。恋人を殺した犯人は捕まっておらず、この事件は作中最大の謎として提示される。

 井浦新は、少女漫画的でありながら人生に疲れ切った中年の男性というこの何とも言えない役どころを見事に演じきったと思う。

 

 窪田正孝演じる久部六郎はアルバイトとしてUDIで働いている26歳の医学生。真面目で気の弱い男だが、雑誌編集社から送り込まれたスパイという二面性がある。

 窪田正孝の実年齢は当時29歳らしいが、やはり役者は若く見えるので、実年齢-5歳くらいの役がちょうど良いのだろう。そういう意味で違和感はなかった。

 

 市川実日子演じる東海林夕子は、UDIの臨床検査技師でミコトの良き同僚である。

 市川実日子は独特の存在感があって適任だったとは思うが、石原さとみと並ぶと身長差が明確に出てしまい、石原さとみが更に幼く見えてしまうのが難点。

 

 他は割愛する。

 

■各話感想

 

 ○1話 名前のない毒

  毒殺と思わせて実はウイルス感染による死亡というケース。

  ドラマの放送時期が2018年の1月からということで、図らずも新型コロナウイルスの流行を予見するかたちとなった。

  毒殺からウイルス感染、感染源が人から病院へと二転三転する展開。

  生者より故人の名誉を優先したことでミコトの結婚がご破算になる。そこから話はミコトの過去へ繋がっていくという構成。

 

 

 ○2話 死にたがりの手紙

  これも座間9人殺害事件を思わせるような内容で、事件発覚が2017年の10月末くらいなので、かなりタイムリーだったと言える。

  集団練炭自殺の中に一人だけ混ざった凍死の遺体。その遺体の中から見つかった紙くずにはダイイング・メッセージが残されていた……と本格ミステリみたいなあらすじだが、その後は冷凍車に閉じ込められてそのまま池に沈められるという緊迫した展開に。

 「白夜を見に行く」というのは、まさしく正反対の極夜(明けない夜)のような状況にいる彼女らにとって太陽の沈まない夜というのは希望の象徴だったのだろう。

 

 

 ○3話 予定外の証人

  包丁でついた傷から犯行に使われたのは被害者の家にあった左利き用の包丁ではなく、右利き用の包丁だったのではないか? という反論から始まる。

  しかし、ここから法廷で女性蔑視発言が飛び出し、事態は場外乱闘の様相を呈する。

  最終的にミコトではなく中堂が探偵役を務めることで事件は解決というかたちになるが、ここでミコトに男たちを論破させてスカッとする展開にしなかったのは、おそらく問題がそこまで単純ではないことを示したかったのだろう。

  この話では一見、検察などの男性優位社会にいる男たちが若い女性の法医学者に対して高圧的な物言いをして従わせようとするありがちな構図が描かれているように思われるが、殺された女性ブロガーも男性を一方的に利用して成り上がり、無職である夫に対してキツく当たっていたわけである。夫は女性に対して強い不信感を抱き、女に自分の人生を任せられないと言って罪を認めようとした。

  要するにミクロな視点から見れば女性優位の環境は存在するし、現状が男性優位であっても今後何かのきっかけで女性優位社会に転換することだって充分にあり得るわけである。

  女性が男性を打ち倒すという展開は、女性優位を示すことに繋がり、差別という観点からすれば、本質的な解決ではない。

  去り際の中堂の言葉のように判断基準を性別に置くことに対して疑義を呈したかったのだと思われる。

 

 

 ○4話 誰がために働く

  バイク事故を起こし死亡した男。責任の所在は、過剰に働かせていた勤め先か? 症状を見逃していた医者か? バイクを修理した修理屋か? という冒頭から始まり、話は労働問題に発展していく。

  全体的に収まりが良すぎる話。勤め先の人間が一致団結して経営者に立ち向かうあたりを作りものに感じてしまうほどに現実が狂っているのかもしれないが……。

 

 

 ○5話 死の報復

  海に飛び込んで自殺したと思われた女性だったが、海水の成分を調べると女性は飛び込みを目撃された場所ではなく、流れ着いたと思われていた発見場所で死んだことが発覚する。

 更に女性の肺の状況から頭から海へ飛び込んだことが判明し、足から海へ飛び込んだという目撃証言と矛盾する。

 このことから導き出される結論は、目撃者が嘘をついているか、見間違えたかのどちからである。

 作中では目撃者が嘘をついているという可能性の検討が充分になされず、見間違えと断定する。

 この辺の処理が甘く、犯人に関してもほとんど事前情報がないので、かなりアンフェアと言える。

 この作品は本格ミステリじゃないと言われればそれまでだが、プロセス自体はかなり丁寧に進行していたので、もう少し手を加えれば本格度が高められたと思うので、残念。

 この5話から中堂との関係が動き出し、最終回に向けた助走が始まる。

 

 

 ○6話 友達じゃない

  腕と耳につけられたデバイスから電流を流してあーだこーだして呼吸を止めるというかなりぶっ飛んだ遠隔殺人。

  余談だが、仮面ライダーオーズ/OOOの伊達さんがほとんどセリフのない死体役のうえに強姦魔という設定。その分キョウリュウレッドの見せ場がある。

 

 

 ○7話 殺人遊戯

  法医学VS本格ミステリといった趣向の話。

  なぜミコトに勝負を持ちかけたのか? という部分はあまり説明されていない気がするが、背中の刺し傷が深く均等に入りすぎているという分析と紙粘土の手がかりから自殺という結論を導き出すあたりは鮮やか。

  自殺を食い止めるシーンでは、ミコトの言っていることは少し的が外れていると思うが、不条理に屈するなというメッセージは10話でも中堂に向けて投げかけられており、一家心中という不条理を乗り越えた彼女の信念を表している。

  一方、恋人を殺した犯人を殺すつもりでいる中堂は、少年に対して「自殺するならいじめの加害者を殺せ」とは言わず「許されるように生きろ」と前向きな言葉をかけており、中堂は逆に信念に反しているとも言える。

 

 

 ○8話 遥かなる我が家

  10体の焼死体の身元を特定するという気持ちの下がる話。これも2019年に起きた京アニ放火事件を予見していたかのようである。

  解剖のシーンではずんの飯尾をピンチヒッターで呼んだりして雰囲気が暗くなりすぎないように配慮しているように感じた。

  父との仲が悪かった元ヤクザの男を自分と重ねた六郎は、焼死体となった彼の名誉を回復させることに成功し、今度は自分が父親と向き合う番と考えて自分の想いを父に伝えるのだが、結局絶縁を言い渡されてしまう。

 還るべき場所を見つけた死者と帰るべき家を失った生者の対比が痛切である。

 これを機に六郎はUDIこそが自分の居場所と考えるようになるのだが、それは同時にスパイとしての自分を精算する必要に迫られるということも意味していた。

 

 

 ○9話 敵の姿

  連続殺人のミッシングリンクを探すという内容だが、アルファベットというのが何とも捻りがなく、かつ見立ての理由の説明もないのが物足りない。

  ここまで引っ張ってきた金魚の痕もそういった意匠が施されたボールを突っ込んだ痕だったというのもやや拍子抜け。

  前回、元ヤクザが命がけで救った男が殺人犯だったというのは強烈な皮肉だが……。

 

 

 ○10話 旅の終わり

  犯人が警察に出頭し、ライターが犯人に関する本を出版したことで、事件が再度明るみになり、中堂の恋人の父親が動き出し中堂と和解することで、彼女の埋葬場所が明らかになり、そして彼女が荼毘に付されず、土葬されていたことが判明する……と上手いこと連鎖して事件は解決する。

  遺体の歯の裏に犯人のDNAが残っていたというが、慎重な犯人が素手で作業するとは考えづらく、人物像とは少し矛盾する手がかりではある。

  ここでも不条理を乗り越えたミコトと不条理に囚われたままの犯人という対比が描かれている。

 

 

■総評

 

 作中でも度々出てくるが、本作には不条理に対して向き合うこと、それが未来に繋がるというメッセージが込められている。

 バットマンシリーズの「キリングジョーク」というジョーカーの誕生譚が描かれている物語では、コメディアンの男が一夜にして女房を失い窃盗未遂で警察に追われる立場となり狂った結果ジョーカーというヴィランが生まれたとしている。

 バットマンの正体であるブルース・ウェインは幼い頃に目の前で強盗に両親を殺害されているが、その過去を糧としてヒーローとなる。

 しかし、誰もがそんな風に強くあれるわけではない。ジョーカーのように道を踏み外してしまう人もいるだろうし、何事にも無気力になったり、最悪の場合は自殺してしまうこともあるだろう。

 アンナチュラルでも不条理な死に直面した人物が復讐として殺人に走ったり、あるいは後追い自殺をしようとするケースが描かれている。その度に主人公であるミコトは屈するなというメッセージを発信するが、それは強者の論理だ。

 終盤、ミコトは初めて養母に対して弱音を吐く。このシーンでは、どんなに強くあろうとしてもこの世界の不条理に一人で向き合うのは困難で、強制されるべきことではないとミコトの信念とは違った角度からの解答が示されている。

 バットマンにもアルフレッドがいるわけで、本質的に人が望んでいるものはこの世界の不条理に対する真実や回答なんかではなくて、不条理を分かち合える人なのかもしれない。