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感想記

2022年のベスト

●各メディアの今年発表されたもののなかでのベスト

 今年触れたもののなかでベストを挙げろと言われれば即答でこれと答えるだろう。

 ミステリというジャンルの中で何度となく繰り返される探偵の勝利。

 その構造自体に疑問を抱いた作家はこれまでに何人もいたし、探偵の敗北を描いた作品も何作も上梓されている。

 しかし、これほどまでに鮮やかに、そして絶望的に探偵の敗北を描いた作品には中々お目にかかれないだろう。

 そして、本作は近年の本格ミステリが軽視してきた犯行の動機に照準を合わせることで、論理を中心として組み立てるクイーン式のロジカルミステリを見事に撃ち落としている。

 日本の本格ミステリに対する強烈なカウンターパンチと言える作品。

 

ゲーム

 未知の言語が使用されている世界で、女の子が何を言っているか推理しつつ読み進めていくノベルゲーム。

 以前にもこういった形式のゲームはあったのかもしれないが、自分にとっては斬新なゲーム体験だった。

 ドット絵を使用したグラフィックはポップでゲーム全体の雰囲気は柔らかく見えるが、ストーリーはかなり不穏というギャップも良かった。

 願わくば、もう少しゲーム性を強めてパズル感覚を味わいたかったところ。

 

映画

 今年は久しぶりに映画館に足を運んで「すずめの戸締まり」を視聴したが、あまり自分好みの内容ではなかった。

 あと今年公開されたもので視聴したのは「シンウルトラマン」くらいだが、こちらも同じく思うところが少ない作品で、残念ながら映画に関しては該当なしという結果になった。

 

アニメ

 女子高生にDIYをやらせるアニメつくったら工具メーカーとかとタイアップできるし、金になるんじゃね?という背景が容易に想像できてしまうが、アニメとしての出来は素晴らしかった。

 DIYを通じて主人公と少し関係がギクシャクしてしまっている幼馴染み女の子との関係の再構築が行われるという話で、一話目から主人公と幼馴染みの子の対比がはっきりと示されている。

 主人公を不器用な女の子に設定しているのは、DIY=器用な人がやるものというイメージを脱却させてより多くの人に興味を持ってもらおうというメタ的な意図があるのかもしれないが、DIYの初心者も経験者も感情移入できる見事なキャラクターに仕上がっている。

 昔のような関係に戻りたいとベンチをつくろうとするところから始まり、それが二人の手でブランコに変わるというラストも鮮やか。

 

●今年触れたもののなかでのベスト

同上。

 

ゲーム

 魔族と奴隷が結託し、生き残りをかけて人間に挑むという王道RPGを逆手にとったような話。

 外圧で世界が変容していったり下の者が上の者を打ち倒す下剋上の爽快感が味わえるシナリオになっており、閉塞した現代社会に生きる人々には響くものがあるだろう。

 そのうえで、戦いの本質を「生き残る」ためのものとして描いており、侵略をしかける魔族側にも一定の共感が得られるようにしている。

 ゲームシステム自体はツクール製なので特筆すべきところはないが、高低差のある起伏に富んだシナリオと一筋縄ではいかないキャラクターたちを上手く纏め上げており、兎にも角にも”よく出来ている”作品だった。

 

アニメ

 展開の妙で思い浮かんだのはこの作品。

 12歳で死神から余命一年と宣告された女の子が、アメリカへ行ってしまった初恋の人との約束を果たすために死神の魔法で16歳の女の子に変身し歌手として活動するという詰め込みすぎなあらすじを52話という長尺で処理していく。

 52話ともなると中だるみは避けられないと思われるかもしれないが、本作に関しては要所要所で山場が用意されているため退屈と思う部分はほとんど見当たらない。

 少女漫画が原作なので、たしかに夢のある内容ではあるのだが、それ以上に現実の過酷さが描かれており、実際物語の後半は壮絶としか言いようがない。

 だからこそ、主人公が困難を乗り越えたときにそれが多少ご都合主義的であったとしても許容できるようになっている。

 楽曲も決して子供だましではなく、今聞いても一昔前のJ-Popという感じで味がある。

 特に「Eternal Snow」は物語上で大きな意味を持つうえに伏線にもなっており、シナリオと音楽の融合に成功している。

 

映画

 アマプラで適当に摘む程度だったせいか今年はこれという作品には出会えなかったが、強いて挙げるならこれだろうか。

 イランの映画だが、認知症となった父親の介護をめぐって夫婦間に亀裂が生じ離婚問題へと発展するという冒頭は日本でもありそうな感じがして謎の親近感を覚えた。

 作為的な描写が多く、それによって作中人物と不信感を共有できるように作られている。

 種明かしをされた後でもその人物に対して抱く感情には変化がないか? という問いかけが凝縮されたラストは、実験的であるとともに不思議な余韻が残る。

 

総評

 年々触れられる作品が減っていっているが、今年も記憶に残るような作品に出会えたことに感謝したい。

 中でも「方舟」は個人的には麻耶雄嵩作品や三津田信三の「首無の如き祟るもの」レベルの衝撃作だった。

 ミステリ全体のレベルが上がっていて膝を打つような秀作は増えたとは思うが、驚きを与えてくれる作品との出会いは減っていたので、これは嬉しい読書体験だった。

 「満月をさがして」は某批評本で高く評価されていたことから興味を持ってはいたものの話数の関係から中々手を付けられずにいたが、

今年の5月あたりに少し時間ができたので、よい機会だからと見始めたら一週間くらいで見終えてしまった。

 とにかく飽きさせない展開の連続でジェットコースターのようでもありながら、視聴を終えた後もしっかり心に残るものがあるという稀有な作品だったと思う。

 

 今まで不定期に感想を投稿していたが、今年に関しては1ヶ月ごとに定期的に投稿するようにしてみた。

 このスタイルで気づいたことや得られたものは今のところ実感としては何もないが、とりあえず一年間続けられた自分を褒めてあげたい。

 以上。